東京高等裁判所 平成元年(行ケ)133号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の当否を検討する。
1 成立に争いない甲第二号証(本件考案の実用新案登録出願公告公報)によれば、本件考案は左記のような技術的課題(目的)、構成及び作用効果を有するものと認められる(別紙図面一参照)。
(一) 技術的課題(目的)
本件考案は、剛性の薄肉プラスチツク管、特に立体的に折曲した形状を有し、熱可塑性樹脂製のものを提供することを目的とする(第一欄第八行ないし第一一行)。
送気ダクトに用いる配管用パイプは、取付け箇所の条件が個別的に異なるため、従来は、変形性に富むゴム製のパイプを用いたり、各種形状の継手によつて配管していた。しかしながら、ゴム製のパイプは製造コストが著しく高いし、継手による配管は継手部分で空気漏れが生じたり、取付け作業に工数を要するなどの不都合がある。一方、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等の硬質熱可塑性樹脂によつて成形した薄肉管はコストが低いが、プラスチツク管の製造技術の制約から、好ましいものを製造できないとの問題点があつた(第一欄第一三行ないし第二欄第五行)。
例えば、エルボ管を製造する場合は、第1図及び第2図に示されているように、上下に対応するL字形丸溝11a、11bを刻設した金型12a、12bの間に、L字形に対応する中空のチユーブ状に成形されたパリソン(可塑性材料)13を、ノズル14から連続的に供給し、金型12a、12bを押圧して合わせると共に、L字形丸溝11a、11bの一端からパリソンの膜間にエアを注入して、溝面に沿つたエルボ15を形成するが(いわゆる、吹込み成形)、供給されたパリソンのうちエルボ15に要する部分以外は不要なバリ16として切除しなければならない。そればかりでなく、この方法では平面的に折曲した形状しか製造できず、立体的に折曲した形状(すなわち、上下左右前後方向に折曲した形状)を得ることは困難である。エルボの一部に蛇腹を設けて折曲自在な形状を得ることも、バリ16を切除しなければならないため技術的にもコスト的にも不可能であつて、従来は立体的に折曲変形し、取付け時にも折曲できる管は存在しなかつたのである(第二欄第五行ないし第二八行)。
本件考案の課題は、このような問題点を解決するプラスチツク管を提供することに存する(第二欄第二九行ないし第三欄第一行)。
(二) 構成
右課題を解決するために、本件考案は、その要旨とする構成を採用したものである(第一欄第二行ないし第六行)。
第3図及び第4図は本件考案の実施例を示す正面図及び側面図であつて、第3図の薄肉管17は前端開口部を基準にすると他端は右下部斜めの位置にあり、その間に折曲自在な蛇腹部17aが斜め立上がり部として形成されている。第4図の薄肉管17は前後に立上がり部を有しており、(A)(正面図)においては両者がV字形に交差した形状であり、(B)(側面図)においては<省略>形に折曲し、前後の立上がり部及び底辺部に折曲自在な蛇腹部17aが介設されている。なお、第5図は第3図に示されている薄肉管17の成形に用いる装置の一例を示す斜視図、第6図はその原理的な作動状態を示す平面図、第7図は右平面図に対応する側面一部断面図である(第三欄第四行ないし第一九行)。
(三) 作用効果
本件考案によれば、価格が安い硬質熱可塑性プラスチツク材によつて、変化に富み、かつ取付け箇所の条件に応じた各種形状の剛性のダクトを廉価かつ容易に得ることができる。とりわけ、大量に生産されねばならない自動車用冷房装置の通風ダクトなどに使用すれば、その経済的効果は多大である(第五欄第九行ないし第一六行)。
2 一方、成立に争いない甲第五号証によれば、引用例はプラスチツク成形加工のうちブロー成形に関する文献であつて、その第三〇〇頁には、「ポリプロピレン製ダクト(ROLLS-ROYCE SILVER SHADOWに採用)」と題して、別紙図面二に示されている写真86、すなわち引用例表示のダクトが示されていることが認められる。
そして、審決は、「引用例表示のダクトの管路部は立体的に折曲された形状であると推認できる」と認定し、かつ、「引用例表示のダクトは捩られていると認められるが、二次元の形状ならば通常は捩られる必要性がないから、同ダクトは三次元の形状であると解するのが相当である」と判断している。
しかしながら、引用例の写真86をいかに子細に観察しても、そこに表示されているダクトの具体的な構成を把握することは不可能であり、まして、引用例表示のダクトが立体的に折曲され、あるいは捩られているとの事実を認定することはできない。のみならず、仮に引用例表示のダクトがいずれかの箇所において捩られているとしても、そのことが直ちに「三次元的に中心軸が変化する」ことを意味しないことは原告が指摘するとおりである。また、前掲甲第五号証によれば、引用例第一七五頁左欄第二行ないし第四行には、「異型成形品の成形がパリソンを手でキヤビテイ内に誘導することによつて比較的容易にできる。たとえば、曲がり管などはバリを出さずに成形できる」と記載されていることが認められるが、「異型成形品」あるいは「曲がり管」とはいかなる形状のものであるかを示す的確な記載は認められないから、引用例の前記記載も、引用例表示のダクトが捩られており三次元の形状であると認定判断すべき論拠とすることはできない。
この点について、被告は、別紙参考図を示して引用例表示のダクトの中心軸が三次元的に変化していることをるる主張するが、いずれも引用例の写真86に適切に即したものとは考えられず、採用することができない。
3 そうすると、引用例には立体的に折曲され、あるいは捩られた形状のダクトが表示されていることを前提として本件考案と引用例表示のダクトを対比し、その間の一致点及び相違点を認定判断した審決は誤りであつて、右誤りが本件考案の進歩性を否定した審決の結論に影響することは明らかである。換言すれば、審決は、極めて不鮮明で技術的事項の認定資料としては適格性が十分とはいい難い引用例のみによつて、本件考案の実用新案登録を無効にしたものといわざるを得ないから、審決は違法なものとして取消しを免れない(念のため付言するに、成立に争いない甲第九号証(登録異議の決定)及び甲第八号証(ブリテイツシユ プラスチツクス)によれば、昭和五六年審判第六九八三号における登録異議の決定は、本件引用例の写真86と全く同一の写真が掲載されている刊行物を引用例の一つとする、本件考案の実用新案登録出願に対する登録異議の申立てを、理由がないものとしていることが認められる。)。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとする。
〔編注1〕本件考案の要旨は左のとおりである。
ダクト管路用薄肉プラスチツク管において、前記プラスチツク管は三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状を有しており、かつ、剛性熱塑性樹脂から成る同一のパリソンから一体的に構成された、管路用薄肉プラスチツク管
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙図面二
<省略>
(他は省略)